井上 勇 IL LUPONE@中目黒

―今でこそ、イタリアの窯で焼くピッツァがだいぶ認知されていますが、井上さんがピッツァに出会ったきっかけから教えてもらってよろしいでしょうか?
きっかけは偶然でしたね(笑) 学校を卒業して病気して、考えていた進路が出来なくなった。病気が治りましたが、仕事がない!それで、父の知り合いの紹介で中目黒のサルヴァトーレのオープニングスタッフで仕事をすることになりました。特に飲食が良いとかイタリアンが好きとかそんなことも全く考えていない状況で・・・(笑)
―今から13~4年前の話になるかと思いますが、その頃は「ピッツァ」ではなく、「ピザ」というイメージですよね?
そうですね。自分もそのイメージでした。だから初めて食べた「ピッツァ」は衝撃的でしたね。『 本場のピザはこうなのか!?』って驚きました。
―早くに、その衝撃的な「ピッツァ」に出会えて羨ましいですね。
そこから、ピッツァイオーロ(イタリアでピッツァ職人の意味)への道のりはどのようにスタートしましたか?
店に入って3ヵ月位経ったある時、サルヴァトーレ氏に、「お前もやってみるか?」と声をかけてもらいました。驚きましたし、嬉しかったですね。すぐに「ハイ!」と答えました。そこからはひたすらピッツァ作りの修行です。全ての工程を教えてもらいながら、少しずつ覚えていきますが、お客様に出せるようになる迄に、1年位はかかりましたね。
―やはり技術を身につけるのは、簡単ではないですよね。しかもその頃日本人でピッツァ職人になろうという人も珍しいのではないでしょうか?
そうですね。ピッツァを学べるのは楽しかったです。ただそれからある程度時間を経て、自分も従業員を見る立場になって来た時、色々と自分の中でうまく事が運ばなくなることが多くなりました。もっとピッツァを勉強したいという気持ちも高まり、それで考えて、その時は一度退職することに決めました。それでナポリに行くことにしたのです。
―ナポリですか?! ナポリは前から行こうと思っていたのですか?
ピッツァの本場はナポリですから、行きたいと思っていました。それでサルヴァトーレさんに紹介してもらったお店で働くことになりました。3ヶ月間でしたが、やっぱり現地での経験は本当に色んなことがありましたね(笑)
―興味深いですね。何が一番印象に残りましたか?
ナポリの人は、人懐っこくて、面倒見がいいですね。でも感情の起伏も激しいから、時々大変なことも(笑)。食材の管理の仕方や厨房の使い方も、日本の感覚とは全然違うので、一見雑多に見えるかもしれないけど、それがナポリの一番ベストな方法で伝統なんですよね。最初はびっくりすることも多かったのですが(笑)。ナポリには、若い10代の職人達がたくさんいて、皆プロとしてプライドを持ってやっているので、技術は本当に勉強になりました。ピッツァ職人は、日本で言う鮨職人のような国民食で伝統的な料理の職人として広く認知された職業ですからね。

―ナポリでの貴重な経験を経て、日本に帰って来られてからはすぐオープンの準備に入られたのでしょうか?
帰国して、少し知り合いのイタリアンのお店で働きました。ただ、もう自分の中で店をやることを決めていましたので、準備は始めようと思っていて、まずは物件探しからスタートしました。
――物件探しは、どのように始めましたか?また場所は中目黒と決めていたのでしょうか?
場所は、中目黒が良いと思って探しました。ただ個人で不動産屋を回り、目黒川通り沿いなどを自分で歩きながら、空き物件を見つけると、そこの連絡先に連絡したり。でもそう簡単には見つからないですよね。元々人気エリアですからね。でも、ある時、今のこの物件が売られているのを知り、すぐ連絡とりました。条件としては、僕がまさに探している物件でしたから。。条件を聞いて、ここに決めようと思いました。でも、家族や友人などからは結構反対もされましたけどね。
―どんな反対ですか?
駅から離れているとか、分かりにくいとか、色々です(笑)でも、僕はどうしてもこの場所がピンと来て、ここに決めたかったので、ここにしました。
―そういう直感ってありますし、大事ですよね。ところで開業資金はどのように準備されましたか?
自己資金だけでは厳しいので、父親に相談し、銀行から借りました。
―物件も決まり、資金調達も確保し、内装工事の手配なども個人でやられる場合は、大変かと思いますが、どのようにされましたか?
内装工事は、以前働いていたお店の人から、業者を紹介してもらいました。スケルトン物件だったので、1からでしたね。あとは、ピッツァを焼く窯が一番時間かかりました(笑)
この窯は、イタリアへオーダーしたので、それが到着する迄に3ヶ月かかりました。だから、内装がほぼ出来上がりましたが、肝心の窯がまだ届かず、到着待ち状態だったんですよ(笑)
―確かにこの窯は、時間がかかりそうですね(笑)でも、井上さんにとっては、お店の命ですよね?出来上がってきた時には、嬉しかったのではないでしょうか?
そうですね。この窯の模様になっているタイルは自分達で買いに行って、皆で貼りました。お店の名前のアルファベットのタイルも、実は1つ逆のものがあります、慌てぶりがわかりますね(笑)
―スタッフ手作り感が伝わりますね。オーナーと皆さんの熱い思いが込められているわけですね!オープン時のスタッフはどのような方々とでしたか?
以前の職場で一緒だった仲間3人でした。しばらくは、その仲間でやり、その後は求人広告などでの募集も行いました。今は長く続けて働いている人もいて、スタッフは本当に大事だと最近つくづく思います。
―オープンにあたり、何か販売促進のようなことは行いましたか?
ほとんど何もやりませんでしたね(笑)。ショップカードを作った位でしょうか。ホームページを作ったのもオープンしてしばらくしてから、兄がデザインの仕事をしていて、「店のホームページを作った方がいい」と薦められて「それなら」って感じでした(笑)。まずは日々の営業をしっかりやることに専念していたという状況でしたね。

―オープン時はやはり現場の営業に集中してしまいますよね。
ところで話は変わりますが、たまにピッツァのお店で見かける「VERA PIZZA」の看板、こちらのお店にもありますが、どんな意味があるのでしょうか?
これはナポリ発祥の真のナポリピッツァであると認定されたものに与えられる、ナポリ公式の「真のナポリピッツァ協会」認定の証です。協会が定める規約の遵守、事前審査を受けて合格すると認定される、現在はイタリア政府公認の認定証となります。
―そのような意味だったのですね!この認定を受けているお店は日本にどの位あるのでしょうか?
僕の知っている範囲で20数店舗じゃないでしょうか?(2008年3月現在:全国28店舗)
―たくさんのピッツァのお店がありますが、まだそれだけですか?すごいですね!
公的に認められるということは店側もお客様側も安心感がありますよね。もちろんその看板を維持し続ける緊張感も常にあるわけですから。
―ピッツァ職人として、一番のポイントは何でしょうか?
ピッツァ職人の技量は、全て「焼き」なんです。生地や食材云々の前に、「焼き」が基本で技ですから。今でも常に完璧な「焼き」を追及し続けていますから。求めた結果が出た時は、今でも毎回、実はこっそり喜んでいます。(笑)
―ところで、井上オーナーが今後やってみたい事はありますか?
ナポリにピッツァフェスタというお祭りがあるのですが、これの日本版を近い内にやりたいと考えています。ピッツァを愛する仲間達と大きな会場を借りて、きちんとしたイベントとして、たくさんの人達に真のピッツァの魅力を伝えることが出来ればいいですよね。
―それ、ぜひ実現させて下さい!ナポリピッツァを広めるべく啓蒙活動は今後が楽しみですね。
そうですね。。僕自身が一番楽しみにしているんですよ(笑)
―3年経って、今ではお店の営業も軌道にのっているようですが、ここに至るまでに経験した中で、これから飲食店開業を考えている人にアドバイスしたいことはありますか?
そうですね。僕はオープンする時に、オープン後3年間という期限を自分の中で決めていました。3年の内に絶対賑わう店を作る、と。3年で出来なければやめるという覚悟で。目標を決めることは重要です。あとは、やはりここまでこれたのは、周りの人達の協力があったからこそだと最近つくづく思います。僕は現場が好きで、これからも現場中心でやっていきたいと思っています。その中で周りのスタッフ達に支えられたことで、すごく人が大事だとわかりました。自分から相手に好かれるように努力することも大事だし、皆とコミュニケーションをとることが大切だと思います。楽しそうにしている人のそばには自然と人も集まりますし、人にも紹介したくなりますからね。お客様は人につくものだと思っていますから・・・
【井上オーナーのお店のこだわりのもの】

インタビュー中にも紹介のあった、やはりこのイタリアに特注でオーダーしたこの窯。窯は発注して3ヵ月待ち、到着後、タイルを買いに行き自分達で貼り付けたという窯は、お店の中でも一番の存在感です。この窯と職人の技で出来るピッツァを求めてやってくる人が絶えない理由は、この店のシンボルであるこの窯無しでは語れません。
【インタビューを終えて】
とても穏やかで優しい語り口の井上オーナーですが、ピッツァに対する情熱は計り知れない未知数で、今後、日本における更なるピッツァ普及の若きパイオニアになるのではと感じさせるオーラがありました。ピッツァイオーロ(ピッツァ職人)が新たな男性の人気職として確立する日も近いのかもしれません。ラッキーチャンスを最大限に活かし、自分で着実に掴んできた井上オーナーの快進撃はじわじわとこれからに期待大です。まずは、ピッツァフェスタジャパン開催の日を楽しみにしています!







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